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執筆者の写真Kennard Xu

世界の食マーケットの新潮流~プラントベースフード

  コロナ禍が過ぎ去った後,世界中にプラントベースフードが流行り,シンガポールもこの新時代の潮流に乗り,現地ではプラントベースフードの需要が高まっている。いわゆる「プラントベース」とは,動物性の原料を使用せず,植物由来の原料をベースに作られた製品の総称であり,その中心となっているのは食品である。プラントベースフードは肉や海鮮はもちろん,卵や乳製品やハチミツなども使わない食品となる。その上,厳密にいうと,純植物由来の原料をベースにすることは,肉のエキス(抽出物)や,鰹節,ウール由来のビタミンD3,ラックカイガラムシ由来のコチニール紅色素などの動物由来の食品添加物も使用しない。また,食品以外は衣料品,アパレル,日常用品,コスメやボディケア製品などもあるが,「プラントベース」の主要関連商品は食品がほとんどである。


  日本におけるヴィーガンやベジタリアン(菜食主義者)の人口は少ない為,「プラントベースフード」はあまり馴染みのない言葉であろう。また,ベジタリアンといえば,極少数派の偏食の人で,肉の代わりに味のない大豆ミートや豆腐などの大豆製品ばかり食べるイメージが先行するであろう。しかし近年,シンガポールを含め海外でのプラントベースフードの需要の急増と伴い,様々な植物原料を活かした斬新的かつ完成度が極めて高い植物性食品が相次いでプラントベースフードの市場に参入している。


  世界各国のフードテックスタートアップ企業から歴史の長い大手食品メーカーまで,大豆,芋,蒟蒻,豆,キノコ,玄米などの多様な食材を利用し,次世代の植物性の代替蛋白製品の開発を進めている。この新世代の植物性食品は,代替肉のミンチだけでなく,スライス,ブロック,千切りなどの形もあり,純植物性のサーモンやマグロの刺身や白身フライやいかリング,プラントベース焼き卵やスクランブルエッグやオムライス,プラントベースチーズやバターやチョコレートやアイスなど数えきれないほどの商品がある。この現象を見ると,プラントベースフードは一時的な流行りではなく,この市場は間違いなく継続に大きく成長していくと思われる。



  プラントベースフードの主要消費者はヴィーガンやベジタリアンと言われており,特に食べ物に起因する肥満や生活習慣病などの健康対策,環境への悪影響を低減する目的,そして動物愛護の観点といった視点から菜食生活を始めたヴィーガンの人数が日々増加している。ワールドアニマルファウンデーションによると,世界には約8,800万人のヴィーガンがいる[1]。2021年「私の近くのヴィーガンフード」のグーグル検索数は5,000%以上増加し,グーグル社いわく画期的な数字である[2]。また,マーケットリサーチ会社東京エスクによると,2018年に3,120万人の訪日客がヴィーガンまたはベジタリアンである[3]。ヴィーガンの人数が徐々に増えているが,世界のプラントベースフード市場が著しく成長している本当の理由は,フレキシタリアンの増加である。


  フレキシタリアン(フレキシブルなベジタリアン)は,健康や環境の為に積極的に菜食を増やしていこうという意識を持っている人のことである。バランスのよい食生活を送りたいことや,健康状態や年齢に応じた食事を心がけたいといった健康志向や,また近年は,動物愛護の観点や環境意識の高まりと相まってフレキシタリアンの食生活を選択している人が増加している。フレキシタリアンの拡大は今後の食マーケットにおいて注目すべきことである。その為,プラントベースフードはもはやニッチマーケット(隙間市場)にとどまることなく,これから主要なマスマーケット(大衆市場)の一つに変わりゆくと思われる。


  食品輸入に頼っているシンガポールでは,コロナ禍とロシアのウクライナ侵略などの事情から食糧のサプライチェーンが大きく影響された。コロナの原因で物流が停滞し,食糧の供給が困難となり,またロシア・ウクライナ戦争の影響で小麦の供給不足から家畜の飼料不足となり,近隣諸国からの豚肉や鶏肉や卵の供給が不安定となり,価格も高騰した。これを教訓にし,シンガポール政府は「30 by 30」という国策を発足し,2030年までに国の自給率を30%まで引き上げることを目指す。一方,国土面積が狭いシンガポールは農業用の土地がほとんどない為,食糧生産の対策として垂直栽培や屋上農園や工場で植物性代替肉などの生産に力を入れている。


  その結果で,近年,シンガポールではプラントベースフードが急速に普及している。日本も同様であるが,昔のスタバックスは牛乳の代わりに豆乳しかなかったが,今は豆乳の他,アーモンドミルクやオーツミルクのオプションまで増加した。また,大人気のイケアのソフトクリームはコーンまで完全にヴィーガン仕様に変更され(牛乳ベースのソフトクリームは販売中止),食品販売コーナーもプラントベースの食品が増え,「プラントベースの選択肢が増加すると,環境への悪影響が低減」というメッセージを訴求する。ファーストフードのバーガーキングは季節限定で名物のワッパーのプラントベースバージョンをテスト販売したが,反響が良く,顧客からたくさんのリクエストが殺到することから,プラントベースワッパーを定番化して通常メニューとして提供するようになった。



  小売現場では,現地の消費者向けの地元スーパーも,近年プラントベースフードの商品数が急増しており,シンガポール国産のものから,近隣東南アジア諸国で製造されたもの,そして更に遠く日本産品(例:一風堂が製造した植物由来の原料のラーメン)や欧米豪のプラントベース商品も相次いでスーパーの棚に並べられている。スーパーで販売されているプラントベースの品物の種類が幅広く,大豆ミートだけでなく,冷凍食品,レトルト食品,インスタントラーメンやカップラーメン,植物性ミルク(アーモンドミルク,ココナツミルク,豆乳,オーツミルク,玄米ミルク,ひよこ豆ミルク)やバターやチーズやアイスクリーム,お菓子,クッキー,チョコレート,調味料や加工食品等がある。このことから,プラントベース食品の需要が日々増加していることが分かる。


  アフターコロナの時代,大型イベントが戻ってきており,食品飲料業界向けアジアで最大級の一つの展示会である FOOD HOTEL ASIA (FHA) は,二年ぶりに2022年に再開され,過去のFHA展示会との違いは,「代替蛋白」という植物性代替肉やプラントベース食品を展示するエリアが増設されたこと。しかも,この代替蛋白展示ゾーンは小さな一角ではなく,三つの展示ホールの中の一つを占めており,国内外から数多いプラントベースフードの企業がB2BとB2Cを対象に自社の新商品を紹介している。


  この新規かつ急成長中のプラントベースフード市場は一時的な流行りではなく,確実に大きく成長し,ニッチマーケットから大衆市場に変わっていく。プラントベース事業に取り組むメリットは対象市場が大きいとのこと。食品自体さえ美味しければ,国内外市場にも関わらず,あらゆる食事生活にも関わらず,誰でも受け入れてもらえる。また,訪日インバウンドとつながることから,今まで携わっていないヴィーガンの観光客が訪麑し,移動やヴィーガンフレンドリーの食事,体験,宿泊,お土産買いなどを通じ,観光収入として地元の産業と経済に貢献できると考えている。ここで強調したいのは,プラントベースフード市場が従来の一般市場と相互排他的であること。その為,従来の事業を保ちながら,今後主流となるプラントベースフード市場に取り組むべきと考えている。



執筆者:シュー・ユェンシャオ・ケナード(鹿児島県 ASEAN ディレクター)

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